救助担架設定角度の研究

 
 

現在の救助担架を使用した救助方法では、出血性ショックを含む全ての傷者に対して、頭側が高くなる担架の角度設定が基本とされています。

出血性ショックの傷者に対し、頭側を持ち上げる行為は、医療関係者の中では、心停止の危険性があるため禁忌(絶対的禁止行為)とされている事から、救助担架設定角度について、研究検証しました。


    写真説明




下左:現在の頭側高位の救助担架設定角度のイメージ写真です。

右:バーティカルストレッチャーによる水平(フラット)救出状況



    ショックとは




内出血及び外出血によりショック徴候(蒼白、虚脱、冷汗、脈拍微弱、呼吸不全等)が認められる状態で、具体的には外出血と内出血のどちらの場合でも1リットル程度の出血でショックとなり、2リットルの出血では心停止の危険性(脳虚血状態)がある重度のショックとなる。

軽度の出血性ショックは上腕骨骨折や下腿骨骨折等、目に見えない内出血で容易になり、大腿骨骨折や骨盤骨折では、重度の出血性ショックになる可能性が非常に高くなる。 

 ショックという言葉は出血性だけでなく、幅広くつかわれている。ショックの定義は急性に発生した全身性の循環障害により、生態の重要臓器や細胞の機能維持に必要な酸素と栄養素を供給したり、代謝産物を除去するための血液循環が得られなくなり、結果として組織細胞が障害されるまでになっている状態である。












































  頭側高位の禁忌について





仰臥位から上半身を約10〜30°挙上した体位が頭側高位である。心臓の静脈還流が少なくなるので、出血性ショックの傷者には禁忌である。頭側を挙上し、さらに下半身を低くする逆トレンデレンブルグ体位も同様である。

※救急救命士テキスト抜粋
































    写真ー垂直救出(頭側下位)





 頭側下位の垂直縛着は担架フラットが標準となった後に検討すべき内容だと思います。

 

研究概要

体位変換による血圧変化と救急隊の対応

外傷による出血性ショックの傷者では、足部挙上で1リットル補液したのと同程度の効果があり、収縮期血圧は30mmHg以上回復することが期待できると言われています。これは医療関係者の中では常識です。足部(大腿部・下腿部)には、多くの血液が蓄えられているからです。この逆の作用を考えると頭
側高位は出血が1リットル以上増大した状態と同等であり、収縮期血圧は30mmHg以上低下すると言われています。なぜなら、血液が重力の影響で足部の容量血管に移動してしまうからです。つまり、仰臥位から上半身を挙上すると心臓への静脈還流が少なくなり、それに伴い心拍出量が減り、脳が虚血状態に陥り、意識レベルが低下するとともに心停止の危険性もでてきます。

 救急隊の対応は外傷の傷者に対して、基本は水平(フラット)です。これは傷者に対して、救助時の影響が最も少ないからです。影響を与えずに病院まで搬送することも救命には重要です。ショック徴候の出ている傷者に対しては、血圧維持と脳虚血防止を目的として、下肢挙上(ショック体位)をとります。さらに処置としては、高濃度の酸素投与及び、保温を実施します。

 

救急救命士テキスト

担架設定角度(頭側高位)によるショック悪化について

軽度ショックの傷者を救助時に担架に乗せ、頭側高位に体位変換すると、重度ショックに症状は悪化し、急激に意識消失する可能性があります。さらに、大腿骨骨折、骨盤骨折、又は、複数の骨折がある傷者(目には見えない内出血の場合も多くある)は頭側高位による影響は強く、脳虚血状態は悪化し、呼吸抑制から心停止する危険性があります。

このことについて、医師から「頭側高位に体位変換した際の症状悪化は数秒で影響がでる場合がある。」と説明がありました。一例が立ち眩みです。立ち眩みは立ち上がるという単純な動作だけで、数秒で脳虚血状態が起こり、起立困難になります。体位変換による脳虚血状態の悪化は想像以上に短時間で起こるのです。

 ここで、頭側高位の影響(出血1リットル増加程度の容態悪化・血圧30mmHg以上低下の可能性・数秒で致命的な影響)を念頭において、傷者の容態を確認していただきたい。細い骨の骨折等(750ml以下の出血)では、症状はめまい程度であるが、体位変換(頭側高位)による症状変化をみると収縮期血圧は80mmHg前後まで低下する可能性があり、意識は昏睡状態に変化する可能性がある。この数秒で起こる変化は、脳に不可逆的なダメージを与える。これは症状悪化後にショック体位等の体位変換を実施して、症状を回復させようとしても容易に回復させることはできないということです。大腿骨骨折・骨盤骨折・腹部損傷等では、体位変換(頭側高位)により、急速に心肺停止状態に容態悪化する可能性があります。心肺停止状態に容態悪化した傷者を救命するのは救命センターへ搬送したとしても非常に困難だと思われます。

 救助担架を使用する救助活動は「低所への転落事故」や「高所から陸屋根への転落事故」等、様々な事故が考えられる。これらの事故の多くが外傷を伴う事故です。

現在の救助活動における担架角度は、傷者を担架に乗せた状態で頭側が高くなる状態が基本となっている。これは「傷者の不安防止」や「傷者が頭に血が上ってつらいのではないか」等の理由からです。

医学的に外傷を伴う傷者は体位変換による血圧変動に注意が必要である。これは傷者が出血性ショック状態になっている可能性があるからで、特に頭側高位(逆トレンデレンブルグ体位)は出血性ショックの傷者に対して禁忌(絶対的禁止事項)とされています。

担架を使用する事故には、外傷を伴うものが多いこと、さらに外傷により傷者は容易に出血性ショックに陥る可能性があることから、担架設定角度の基本を見直す必要があると思われます。

この必要性について、 以下の2点に焦点をあて、説明します。

まずは、右の説明欄のショックについて、理解を深めてください。

◎体位変換による血圧変化

 ◎担架の角度設定について

救助担架を使用する救助活動

具体的な活動のポイント

  全体的には今日までの活動と変わりません。ポイントは担架の角度だけです。救助隊が傷者と接触して、観察を実施した際に外傷が観察できる、または外傷の疑いがある場合には、隊長が担架フラットを宣言(周知)します。状況によっては、ショック対応も必要になってきます。頭側高位の担架角度設定は行いません。

垂直縛着について

出血性ショックの傷者に対する垂直縛着(頭側上位)は極端に脳虚血状態を悪化させ、脳に不可逆的なダメージを与えます。このことから、頭側下位の垂直縛着を考慮しなければ
なりません。頭部外傷を伴う傷者では頭蓋内圧亢進による症状悪化が考えられることから、現場の救急救命士と容態を考慮し、判断しなければならないと思われます。

頭側下位の垂直状態は、脳圧亢進や横隔膜圧迫による呼吸困難が予想されますが、救命センターの医師に確認したところ、「頭側上位による垂直状態での脳虚血状態と比べるならば、心停止の危険性ははるかに少ない」とのことでした。

頭側下位の垂直縛着については、検討すべき内容が多く残っています。しかし、状況によって、傷者の救命には必要であることから、早急に検討し、救助方法を確立しなければならないと思われます。

 

まとめ

(1) 出血性ショックの疑いがある傷者(外傷の可能性のある傷者)の担架設定角度は水平(フラット)を基本とし、頭側高位はするべきではないと思われます。

 

 頭側下位の垂直縛着以外の担架角度設定(フラット、ショック対応等)は現有の資器材と技術で充分に実現可能です。

 東京だけでなく、日本中・・・世界中の救助員の方々に理解していただければ、必ず救命率が向上すると確信しています。すべては傷者を救命するためです。